饅頭こわい
前回は、落語から見た詐欺の手口の分析、対処法を考えました。落語好きの私としては、ほかの噺にも詐欺の手口が分かるものがいっぱいあると気づいたので、今回も落語のお話。
落語「饅頭こわい」のあらすじです。
町内の若い連中が集まって、暇だから何か面白いことはないかという。じゃあ、自分が怖いと思うことを言い合おうということになる。
ある人は、アリが怖い。ある人は、蛇がこわい。蜘蛛が怖い、馬が怖いといろいろ出てくる。
脇で寝ころびながら聞いていた皮肉屋の男が、起き上がり「何だいみんなだらしねー!」そんなものはみんな怖くなんかないと凄む。「俺には怖いものなんてない!」といったところでハタと止まる。「あ、いけねー、急に思い出しちまった。ああ、具合が悪い」と寝込む。どうしたのかと尋ねると実は怖いものが一つだけある。それは饅頭であるというのだ。あまりに具合が悪そうなので、奥の部屋に寝かしつけて、仲間連中が相談をする。いつも皮肉屋で文句ばかり言うこの男を懲らしめてやろうというのだ。怖いという饅頭をいくつも並べてぐうの音も出ないようにしてやれ!
みんなであちらこちらに出かけ、饅頭を買ってきて枕元に並べる。そして具合はどうだと起こす。
目の前に嫌いな饅頭があるものだから、ギャーとばかりに叫んで大騒ぎする。
ついでに興奮して噛みつく!食いつく、しゃぶりつく!むしゃむしゃ食べる。
様子がおかしい、騙されたと気づいた仲間連中は「この野郎、実は饅頭が大好きだったんじゃないか。本当は何が嫌いなんだ」と聞くと「本当は渋いお茶が怖い」
結局、落ちも人を食ったようなセリフになっている。

この落語も、誰かをだまして自分だけ得しようという、詐欺の手口を明かしているような話だと思う。
簡単に言うと、相手を興奮させて、冷静さを奪うことだ。冷静でなくなると、いとも簡単に、相手の思うとおりに動かされてします。まるで催眠術にでもかかったように。
私たちは、関心のあることや自分が好きなことを否定されると気分を害するものだ。「何だそんなもの」と言われれば頭にくるのではないか。実は詐欺を働く人たちは、私たちを冷静でいられなくしようとするのだ。これは常套手段である。人は興奮すると知能指数が落ちる。つまり考える力が低下するのだ。
”饅頭こわい”でも、みんなをだらしないと言い、ばかにする。こんなものは怖くないと否定する。言われた相手は頭にくる。という展開だ。
詐欺師がよく使う手は、息子が事故を起こしてしまった、会社の金を使い込んだ、孫が誰かを妊娠させたというもので、おじいちゃんおばあちゃんが聞いたらびっくりして興奮しないわけがない。思考力がうばわれてまともな判断ができなくなる。
だから気をつけましょう。自分の考えを否定されたり、驚くようなことを聞いたら、一呼吸おいてちょっと考えてみましょう。相手の言うままに返事をするのではなく、こちらから質問してみましょう。
「で、どうなったんだい」「相手の名前は何という人なんだい」「誰が、いつ、どこで、どのように」を、ゆっくり、一つ一つ分けて質問します。そして答えをできるだけメモしていきます。
詐欺師にとって、想定外のそのような具体的で冷静な質問は、すきを作ることになり矛盾が生じてきます。例えば、事故が起きた状況を具体的に聞けば矛盾点が出やすいでしょうし、妊娠させたというのであれば、相手の名前、親はどこの人か、どんな立場の人か、妊娠何か月か、なぜこのタイミングなのか、なぜ祖父の自分に連絡してきたのか、などを聞き続けてください。詐欺なら、相手は必ず苛立ってきます。今度は向こうが興奮して冷静でいられなくなり、ぼろを出します。あとはゆっくりそこを突いていけばいいのです。それこそ、年寄りの知恵でいびり倒していけばいいんです。反省して、二度と電話してこないでしょう。
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