私は14年前、当時働いていた職場の代表者に嫌われて仕事がもらえなくなり、一か月近く干された結果、自主退社せざるを得なくなりました。
3人の子供がおり、生活していくのがやっという日々でしたから、転職するにしても早く決断する必要がありました。
40歳を超えて転職することはかなりハードルが高くなります。しかも「失われた20年」のデフレ真っ最中の時期で、いい仕事はなかなかありません。
とりあえずアルバイトをとも考えました。
時給900円程度で毎日働かされて疲弊している人は多いと思います。
900円X8時間=7200円で、休みなしに毎日働いて、やっと20万円の収入です。
しかし、900円ならまだいい方で、岩手県の最低時給は825円程度です。週に一度は休みたいなと思えば、月収は16万円程度になってしまう。これでは家族を養うこともできない。

そこで、これまでの仕事で培った技術を生かして独立起業することにしました。「失敗ならそこでやめればいい」、半ばやけくそです。
しかし、起業するにも資金がありません。今まで使っていた道具や機材は、職場のもので、今の時代の職人仕事はほとんど、特殊な道具や電動工具なしにはできるものではありません。自前で用意するためには資金が必要です。火の車の家計にそんなお金を捻出する余裕はなく、自分の小遣いだって月5000円で、収入が少ない時期は、小遣いなしです。
でも実は、自分にはヘソクリがありました。これまで、いつか新しいパソコンを買うために、多くもない小遣いの中から少しずつ貯めていた3万円です。ないよりはまし!これでできる範囲のことをしようと決意しました。
私がこれまでしていた仕事は、車の清掃いわゆるカークリーニングというものです。ディーラーや中古車販売店が、下取りしたり仕入れてきた自動車の中をキレイに掃除して店頭に出すための作業をしていました。ほかにも、修理に出したり車検に出した際に、ついでに気になっていた汚れた部分をきれいにしたいという注文もあります。また、忙しい社員に代わって店頭の車を洗車したり磨いたりする仕事もあります。
この仕事の良かった点は、家から現場へ直行直帰できることです。それぞれの職人に道具が与えられていて、依頼のあったディーラーさんに行って作業を終えたらそこで帰れます。伝票を代表の家のポストに入れて、足りない洗剤などを倉庫からもらえばよいのです。代表や他の社員と顔を合わせることもほとんどないため、気が楽でよかったのです。
この仕事をするためにはいくつかの電動工具が必要です。乾湿兼用掃除機、高圧洗車機、スチーマー、バキュ―ムクリーナー、磨くためのポリッシャー。ほかに業務用の特殊な洗剤を何種類か。すべてをそろえるためには、最低でも30万円はかかります。

そこでこう考えました。
「手持ちの3万円でできることは何か」
つまり、今までやってきた仕事のすべてをするのではなく、最小の経費でできる分野だけをやるということです。
車磨きにはポリッシャーが2台必要で、一台買うだけで予算オーバーですから、これは除外します。
洗車はどうか。車を水洗いして、一台数百円を貰えますが、一日働くととんでもなく疲れます。これを毎日するのは無理です。特に業者用のオークションに出品する車は、元が汚いために時間もエネルギーも使います。これはやめておきたい仕事です。
車の室内クリーニングはどうか。これもいろいろな電動工具を使います。ごみを吸うための乾湿兼用掃除機。エンジンルームや油汚れを洗い流すため、汚れたフロアマットを洗うために使う高圧洗車機。埃だらけのダクトを洗い流すためのスチーマー。布地の汚れやジュースなどのしみ込みを取り除くためのバキュ―ムクリーナーなどです。この分野が一番道具を必要とします。
しかし、私は以前から仕事でいろんな工夫をすることを学んでいました。
例えば仕事中に、掃除機が壊れてしまい全く使えないことがありました。この場合、新しい掃除機をホームセンターなどに買いに行くように指示されていましたが、お客様に事情を話し掃除機を借りてその場をしのぐとかです。この場合、普通の家庭用掃除機では濡れた部分を吸うことができないので、なるべく全体を濡らさない工夫や渇きやすいように作業の順番を変えるなどの工夫をします。もちろん、毎回お借りするわけにはいかないので、掃除機は必要不可欠です。
高圧洗車機は、あるととても便利なのですが、ほとんどの車屋さんには大型のものが洗い場にあります。それを借りればいいのです。
スチーマーは、園芸用の農薬散布などで使う噴霧器で代用できます。
布地の汚れやジュースなどのしみ込みを取り除くためのバキュ―ムクリーナーはとても便利な道具で、カークリーニング業者としてはぜひ持っていたい道具です。シートに付いた手あかやヘッドレストに付いた整髪剤の汚れ、子供がこぼしたジュースのシミなど、比較的簡単に取ることができます。このバキュームクリーナーの構造は二つに分かれていて、一つの部分には水のタンクがあり、ホースを通ってクリーナーの先端にあるノズルからきれいな水を噴射するものです。もう一つの部分は掃除機に似ていて、汚れた水分を吸い込み、中のバケツに溜めていきます。よくできたもので、能力の高いケルヒャーのものだと17万円くらいになります。自分で買うとなると手が出ません。この道具なしに仕事をするとなると、かなりの手間と時間がかかります。
でも、こう考えるとどうだろう。必要なのは、水をかけることと吸い出すこと。試しに園芸用の噴霧器で水をかけて、乾湿掃除機で吸い出すと同じようにきれいになりました。作業の不便さはありますが、これでイケるのではないか。
ということは、最低限必要なのは乾湿掃除機であり、洗剤さえそろえれば、室内清掃専門のカークリーニング業者としてやっていけるのではないかと結論しました。
そんなわけで、乾湿掃除機を買い、とりあえず市販の洗剤と細かな道具を買い求め、実家の押し入れに山のようにある農協からもらったタオルを貰って、弟からもらったパソコンで名刺を作り、カークリーニング業者として起業し仕事をスタートしました。
かかった経費は2万5千円です。
その後、仕事注文を貰うための奮闘は、また今後に。
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